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大阪高等裁判所 昭和59年(う)761号 判決 1984年11月01日

主文

原判決を破棄する。

被告人両名をそれぞれ懲役二年に処する。

被告人両名に対し、それぞれ原審における未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。

被告人両名から、押収してある黒色ビニール袋(二袋)入り大麻(当庁昭和五九年押二九四号の1)、白色ビニール袋(一袋)入り大麻(同号の2)、茶色容器(一個)入り大麻(同号の3)、オレンジ色容器(一個)入り大麻(同号の4)、バラの絵柄付容器(一個)入り大麻(同号の5)、紺色金属製ケース(一個)入り大麻(同号の6)、白色金属製ケース(一個)入り大麻(同号の7)、レンガ色プラスチック篭入りビニール袋(二袋)入り大麻(同号の8)、ビニール袋(一一八袋)入り大麻(同号の9)、白色シーツ一包入り大麻(同号の10)、袋(一袋)入り大麻(同号の11)及びビニール袋(一袋)入り大麻(同号の12)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人富久公作の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用するが、当裁判所は、所論並びに答弁にかんがみ、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して、次のとおり判断する。

控訴趣意第一について

論旨は、要するに、大麻取締法にいう大麻とは、大麻草及びその製品をいうのであって、大麻草の種子は規制の対象から除かれていると解すべきところ、原判示第四において、被告人両名らが所持したという大麻約五、〇三四・七六グラムの中には、右規制対象外である大麻草の種子が相当量混入している(特に、シーツにくるんだ当庁昭和五九年押二九四号の10の約一一八〇グラムは大部分が種子であり、小分けした同号の9の一一八袋にも相当量の種子が混入している)のに、その全量について所持罪を認定した原判決には、事実の誤認ないし法令解釈適用の誤がある、というのである。

よって検討するのに、大麻取締法にいう大麻には大麻草の種子は含まれないと解すべきことは所論のとおりであり、又原判決が第四において認定した大麻約五、〇三四・七六グラムの中には相当量の種子が混入しており、特に所論指摘の前同押号の10の約一一八〇グラムは、その大半が種子である(但し、同号の9には極く微量の種子が混入しているのみである)ことが認められるが、右大麻約五、〇三四・七六グラムは大麻草とその種子とが渾然一体となっていて、両者を区別して計量することは事実上不可能であり、又大麻の所持罪における客体の数量は罪となるべき事実そのものでなく、単に犯行の情況又はその同一性を示すべき事項として記載されるものにすぎないから、原判決もそのような要請をみたす目的で、概括的に大麻にあたらない大麻草の種子をも含めた重量を記載したものであって、その種子の分についてまで大麻所持罪の成立を認めたものではないと解されるから、原判決には所論の事実の誤認ないし法令適用の誤はない。論旨は理由がない。

控訴趣意第二について

論旨は、量刑不当を主張し、被告人両名に対し刑の執行を猶予するのが相当である、というのである。

よって検討するのに、本件は、被告人金が、被告人羅と共謀(一六回)又は単独(二回)で合計一八回にわたり大麻合計約八四二グラムを有償又は無償で譲り渡し、被告人羅外一名と共謀で大麻約五、〇三四・七六グラム(大麻草の種子相当量を含む)を所持したこと、被告人羅が、被告人金と共謀(一六回)又は単独(一回)で合計一七回にわたり大麻合計約八二八グラムを有償又は無償で譲り渡し、被告人金外一名と共謀で大麻約五、〇三四・七六グラム(大麻草の種子相当量を含む)を所持したことを内容とする事案であるところ、大麻が麻薬に匹敵するほど強い有害性を持つものではないとしても、科学的にみて健康に害を及ぼす薬物であることは広く認められるところであり、所論のいうアルコールや煙草のように、すでに長期間にわたって社会的に受容され、その健康に及ぼす危険性に対する対応策も考えられている薬物と同一に論ずることはできず、大麻関係犯罪も相応の刑罰は免れがたいこと、特に、本件は前記のとおり大量の大麻を有償又は無償で譲渡し、所持したというもので、しかもこれら大量の大麻は、被告人両名が自己使用と譲渡による利得を目的として、ともに北海道まで赴いて採取したものであって、現に被告人両名は、右譲渡により合計一六三万円の利得をえており、同種事案の中では規模が大きく、社会に及ぼし又は及ぼさんとした害悪の程度は高く、軽視しえない事案であると考えられること、被告人両名とも大麻喫煙経験も長く、本件犯行当時怠惰な生活を送ってきたこと等に照らすと、被告人の刑責は重いといわざるをえない。

しかし、本件大麻は、前記のように被告人両名が自ら採取してきたもので、密輸したものでないこと、被告人金には外国人登録法違反罪で一回罰金刑に処せられた以外に前科なく、本件犯行後建物解体会社の従業員として働いており、被告人羅には道路交通法違反罪で罰金刑に処せられた以外に前科なく、本件犯行後不動産取引業を営む会社に就職しており、共に本件を反省し、更生の道を歩み始めていること等の被告人らに有利な諸事情を斟酌すると、被告人両名をそれぞれ懲役二年六月の実刑に処した原判決の量刑は、所論のいうように被告人両名に対し刑の執行を猶予するのが相当であるとまでは考えられないが、その刑期の点において重すぎるものと考えられる。論旨は理由がある。

よって、刑事訴訟法三九七条一項・三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決することとし、原判決認定の事実に原判決摘示の各法条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石松竹雄 裁判官 鈴木清子 田中明生)

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